「将来、株価が10倍になる会社」の4つの条件

      将来、株価が上がる会社を見つける方法はあるのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「株価が10倍になった会社を分析してみると、共通する4つの条件があった。その一つは、オーナー企業または社長が筆頭株主であることだ」という――。

 
「10倍株」は身近なところにある
    
   テンバガー(10倍株)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?


バガーは野球で塁打を意味します。直訳すれば、テンバガーは10塁打になります。1試合で合計10塁打の大活躍をする選手のように、テンバガーはありえないほど株価が急騰した株、10倍になった(なりそうな)株を指します。


私は大学院を出てから、証券会社に勤めました。投資のプロたちでも10倍株はそう簡単には見つけられません。しかしどのような株が10倍になるのかを調べてみると、意外にも身近で名前の聞いたことのある会社が多いことを発見しました。


たとえば、ファーストリテイリング(ユニクロ)、ニトリ、神戸物産(業務スーパー)、アークランドサービスホールディングス(かつや ※2023年8月上場廃止)、ワークマン、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(ドン・キホーテ)などです。共通点は、どれも実際に店舗を構え、商品やサービスを体験できる飲食や小売り業界です。


この本では、架空の外食チェーン店「これから湯豆腐」が登場します。架空といっても、実際のニュースや出来事を参考にしているので、すぐに投資に生かせる知識を得られるでしょう。また、これまでの投資情報は「どの株を買えばいいのか」「いつ売ればいいのか」に重点が置かれていましたが、本書ではどうすれば「売らない」判断ができるのかも丁寧に解説しています。


日々飛び交うニュースのなか、投資家の葛藤を主人公のカルタくんと一緒に体験してもらえればと思います。


 オーナー社長は「アリ」「ナシ」?
「ひとり湯豆腐専門店・これから湯豆腐」を運営する株式会社ダイズ。調べてみると、発行株式の30%以上を創業者のイケメン若社長とその親族が持っているようです。



カルタくんは就職活動のとき、「オーナー企業は、出世もクビも社長の気分次第だからやめておけ」と友だちから言われたのを思い出しました。強い権限を持つオーナー社長が率いる企業は、投資するのを避けたほうがいいのか、カルタくんは気になっています。

Quiz オーナー社長は10倍株に向いている/いない?
A 迅速な意思決定で、高い成長を維持できるので10倍株に向いている。
B ワンマン社長に振り回され、優秀な社員が離れていくので向いていない。



    


ホームページに顔を載せる社長には自信がある
  
  カルタ君:イケメン若社長はまだ30代半ば。ホームページに大きな自分の写真を載せているので、少しチャラい感じがします。


エミン先生:ホームページに社長の顔が堂々と載っているのはプラスポイントだよ。腕のいいコックがオープンキッチンで料理するのと同じように、自分のビジネスにゆるぎない自信がないとできないからね。



カルタ君:でも筆頭株主でもあるイケメン若社長がなんでも一人で決めてしまうと、優秀な社員は力が発揮できずに離れていくのではないですか?


エミン先生:ところがね、これまで10倍になった企業の共通点を探してみたところ、オーナー社長だったケースが多いんだ。思い切った決断や長期的な視点に立った経営ができるし、株価が伸びれば自分の資産が大きく増えるから、雇われ経営者に比べてモチベーションも高い。


カルタ君:10倍株になるためには、イケイケの社長のほうが向いているのですね。正解はAか。業績だけでなく、投資する企業の社長まで調べないといけないとなると、10倍株を探すのは大変だ。


エミン先生:それじゃあ、カルタくんには特別に、私がこれまでの経験や分析で見つけた、10倍株の条件を教えてあげましょう。


カルタ君:やったあ!

  


売上成長率と営業利率率のボーダーライン


私たちが長年にわたり、10倍株の共通点を分析したところ、大きく4つありました。


(1)過去4年間の売上成長率が年20%以上
まずは企業の成長の源泉である売上高が着実に伸びているのが条件です。売上高が伸びていれば、それは競合他社との競争に勝ってマーケットシェアが拡大しています。または新製品で新たな市場を開拓しているかもしれません。シェアはそのままでも市場そのものが成長している場合もあります。


毎年20%ずつ売上高を伸ばしていれば、4年で倍になるスピードです。


(2)営業利益率が10%以上
これは企業の「稼ぐ力」です。営業利益とは、売上高から原価や人件費などを除いた儲けのこと。これを売上高で割って求めたものが営業利益率です。本業でどの程度の利益を出せているかを確認します。営業利益率は業界によっても異なりますが、10%以上が望ましいです。


上場5年以内」の勢いある会社が狙い目


(3)上場から5年以内
上場直後は企業がもっとも成長する時期です。上場で集めた資金を、成長分野に投資できるからです。時価総額(株価×発行済株式数)でいえば、1000億円以下が1つの目安。あまり大きすぎると10倍に成長する余地がなくなります。


(4)オーナー企業、または社長が筆頭株主である
そして4つ目の条件がオーナー企業、または社長が筆頭株主であること。大胆な経営判断ができ、企業の成長が自らの資産に直結するので、会社のために働く意欲も高い。子どもや孫の代まで会社を残そうと長期的な目線での経営も期待できます。


4つの条件をすべてクリアしているのが理想ですが、厳密に満たしている必要はありません。「(1)は満たしているけど、(3)は少しオーバーしているな」というケースもあるでしょう。それぐらいでしたら十分検討に値します。


カルタくんはダイズが条件に当てはまっているかどうかを熱心に調べています。「売上成長率OK、営業利益率ギリギリだけどOK、上場してからちょうど5年目、そしてイケメン若社長が筆頭株主。エミン先生、ダイズは10倍株の条件に当てはまっています!」とカルタくんの声は弾んでいます。ダイズへの期待が高まりますね。


とはいえ、これら4つの条件すべてに当てはまるからといって、株価が上がるとは限りません。あくまでも過去の10倍株から導き出した共通点です。ストーリーが描けるかどうかがいちばん大切なことを忘れないでください。




「株価が10%下がったら売れ」は本当か
ついに株主となったカルタくんは、仕事中もスマホで株価をチェックしています。「押し目待ちに押し目なし」とエミン先生は言ったのに、株価は購入時の600円から、見つけたときの500円まで、16%も下がっています。押し目が到来したようです。


これといったニュースがないのに株価が下がるので、カルタくんの不安は募ります。


そんなとき、「成功する投資家は損切りが上手。株は10%下がれば売るのが鉄則」というウェブ記事を見つけました。カルタくんは、いっそのこともう売ってしまってラクになり


たいと思い始めました。



Quiz 株価が下がったときはどうする?
A 初心者に損切りはむずかしい。10%下がれば機械的に損切り。
B ストーリーが崩れていなければ、売らなくていい。


      

グロース株投資は簡単に損切りしない


カルタ君:エミン先生~(泣)。悪いニュースもないのに株価が下がっています。


エミン先生:相場全体が下がっているからね。こういうときは前に買って儲けている人が利益を確定するために売ろうとするから悪いニュースがない株でも下がることがあるんだよ。


カルタ君:僕より前に1株400円とかで買っていた人が売っているのでしょうね……。僕は1株600円で買っているので、すでに赤字です。これから300円まで下がっちゃったらどうしよう。いまのうちに損切りしておくほうがいいのでしょうか?


エミン先生:株価10倍を目指せるようなグロース株では10%を超えて下げることも珍しくはないよ。


カルタ君:ウェブの投資記事では「20%上がれば利益確定、10%下がれば損切り」を機械的にすれば儲けられると書かれていました。


エミン先生:それも1つの方法だね。でもグロース株でそれをやると、損切りばかりになってしまうかもしれない。10倍株を目指すストーリー投資なら、ここでの正解はBだよ。



目指すは「高く買って、さらに高く売る」



まず投資手法には大きく分けて2つあるのを覚えておこう。


1つ目は、これから成長していく企業の将来性に期待するグロース(成長)株投資。2つ目は、企業の資産や利益などの財務状況に比べて株価が割安に放置されている銘柄を見つけて投資するバリュー(割安)株投資です。


一般的にグロース株のほうが株価の変動(ボラティリティ)は大きく、バリュー株のほうが株価は安定しています。グロース株はPERが100倍を超えているケースもあります。「高く買って、さらに高く売る」というのがグロース株投資です。一方のバリュー株投資は、「安く買って、本来あるべき株価に達したら売る」です。


バリュー株投資の代表的な投資家はウォーレン・バフェットです。世界最大の投資会社バークシャー・ハサウェイの会長を務めています。これまで日本株には投資していなかったのですが、2020年に「万年割安株」と言われていた日本の商社に目をつけて投資し、巨額の利益を得ています。90歳を超えても、天才的な眼力は健在で、「投資の神様」「オマハの賢人」と呼ばれ、世界中の投資家の目標となっています。


ではストーリー投資はどっちなの? といいますと、どちらにも含まれます。ストーリー投資は、投資の土台になる考え方です。グロース株投資にもバリュー株投資にも応用できます。ただ、より真価を発揮するのはグロース株投資でしょう。グロース株を取り巻く環境は変化が激しく、参考になる指標も見つかりにくい。そんななかで、大局観を持つストーリー投資は大きな力になります。



株価が下がったときの3つの選択肢


さて、株価の急落時にカルタくんはどうすればいいのでしょうか?


株価が購入時より下がる「元本割れ」は、初心者にはショックが大きいものです。人は、利益を得るよりも損失の苦痛のほうが2倍以上大きく感じるようです。行動経済学では「プロスペクト理論」といいます。人はできるだけ損を避けようとする心理的な傾向があるため、そもそも投資において合理的な判断をくだすのは苦手なのです。


それを念頭に置いたうえで、損失に向き合ってみましょう。今回は3つの選択肢が考えられます。


まずは損切りです。


株を売却して、損失を確定させることです。損切りのタイミングはむずかしいので、機械的に10%下がれば売ると決めるのも有効な手段です。しかし気をつけたいのは、株価の変動が激しいグロース株投資では、とくに悪いニュースがなくても、10%ぐらいは株価が上下するため、せっかく10倍株を見つけても、すぐに手放すことになるかもしれません。


                 


買い増しはハイリスクなので慎重に
次は買い増し(ナンピン)です。


下がったところで、株を買い増せば、平均取得単価を下げられます。投資家は「難平」(ナンピン)買いと呼んでいます。ナン(損)を平(たいら)にするという意味です。


エミン・ユルマズ『一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)エミン・ユルマズ『一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)
ただしさらに株価が下がれば、損失が拡大します。「落ちるナイフはつかむな」という投資格言があるように、どこまで株価が下がるのかは誰にもわかりません。とくに悪いニュースがあったときは、上昇に転じるまではナンピンを控えるべきです。


最後に様子見があります。


様子見は何もしないという意味ではありません。どうして株価が下がったのか調べ、ストーリーを点検したのち、ストーリーに変わりがないのなら、ジタバタせずにどんと構えているということです。


今回、ダイズの株価が下がったのは、悪いニュースがあったからではありません。カルタくんの描いた成長ストーリーは崩れておらず、投資金額も最低単元のみで、まだ資金余力もあります。買い増しするか様子見するのがいいでしょう。


Emin YurumazuさんのLINEを無料で追加し、投資の知識を学び、長期的な安定収入の投資方法を手に入れましょう;